上代葉月は高橋美奈の健康教室に、白波百合と坪井咲夜と参加しながら、こういう風にセラピストも活躍できるんだなぁと素直に感心していた。
それじゃぁ、病院以外での運動処方がとっても難しい事はわかったわね。それでここでまずトレーニングの原理を振り返ってみましょうか?
それは学校でも習いました!まずは過負荷の原理ですね。もし運動のパフォーマンスを向上したいならば、日常生活以上の負荷でトレーニングをしないと成長しないって事でしょうか。それは主に筋力の向上に使われる言葉ですね。もちろん全身持久力もそうですが。
今以上の能力を手にいれる、動作能力を手にいれるには、いつもと同じではダメって事っすね!もちろん限度はあるっすけど。そして可逆性の原理っすね!過負荷の原理に法って運動しても何もしなければ元に戻っちゃうって事っすね。
そして、特異性の原理やな!短距離走の練習をすれば短距離走が、長距離の運動をすれば長距離を走るのが上手になるって事やな!他にも臨床やったら例えば階段昇降や歩く練習をするためにそれらの動作練習を行うとともに、その動作を獲得するために必要な筋肉の機能向上を行う、似たような動作の練習を低い負荷から行って、やがてはその動作の獲得を目指すって事にも使われるわな!懐かしいなー!
これは基礎の基礎よね。でもそれを意識せずに運動処方をするのとしないとでは、クライアントさんのニーズを満たせるかどうかにとっても差が出るの!
はい!と上代は返事をする。自分たちセラピストの生きる世界は病院の中だけだと思っていた。それはもちろんリハビリのオーダーは医師にしか出せないから、それにも起因する気持ちだとは思うけど、その場所以外でも生きていけるのは高橋を見ていれば実感できた。
他にも原則としては色々あるわ。それはまず意識性の原則!これはその運動の内容や目的を理解して行うかどうかでは全然違うって事。そして全面性の原則。これは一つの運動をただ続けるよりも、持久力や柔軟性といった様々な体力に関する要素を高める事で全身のパフォーマンスは向上するって事ね。
そやな。それならちょっと知ってんで!専門性の原則もまたあるわな!特異性の原理にちょっと似てるけど、その動作や競技の目的になった機能を優先的に高める事やな!健康的にジョギング程度の目的なのにがっつり筋力トレーニングを処方するのもなんかちゃうもんな!そして個別性の原則、これはそれぞれの体力に合わせて内容を決めなさいって事。聞いてみれば当たり前の事なんかもしれへんけど大切やな!
うん!そういえば前一緒に勉強したね!あとは漸進性の原則、これは目的とする運動に対して、徐々に強さや量、課題に対して少しずつ内容を高めていく事かな?過負荷の原理にも似てるね!そして反復性・周期性の原則!これは可逆性の原理にも似てるかな。1日だけどうするだけではなく長期的なプランニングを行って、規則的に定期的に繰り返し行いつつ効果的に高めていくって事だね!
なるほどっすねぇ。でも運動処方するって事は、やっぱりこれらの原則に法って行う必要はあるっすね!なんだか部活動を思い出すっす!
そうねと高橋は返事をする。そして白波を変わらずどこか愛おしそうに眺めている。それはこの前からだけど何かやっぱり関係があるのかなぁ。と上代は首を傾ける。
そうね。基礎の基礎。そしてそもそも運動処方はこれらの原則に加えて、疾病の改善や健康づくりのためのプログラムを処方するとも言われるの。それにはメディカルチェックを十分に行った後、運動の頻度(Frequency)、強度(Intensity)、持続時間(Time Of duration)、運動の種類(Type Of Exercise)を決めてその人の目的にあった運動を規定し伝える。それぞれの頭文字をとってFITTの原則と呼ばれるわ。そしてこれがとっても問題なのよね。
なるほどですね。これで最初の美奈さんのお話に戻るのですね。病院以外だと十分な客観的な情報を元にメディカルチェックが行えない事もありますね。
目隠ししてってのはこの事やな。確かに原理、原則に法ってクライアントさんの目的を達成するために運動を処方する。だけどもその間にあるメディカルチェックの部分をどうするかって事やな。
確かにそうっすね。たとえ若い人でも先天的な疾患を持っている人もいるっすから。全ての人がそうではないっすけど、運動処方にあたり事前にリスクが予測出来ておかないと、誤った運動処方にもつながってしまうっす。
全てがそうとは言えないし、因果関係もまた難しいところではあるわ。でもね。これからの世の中たくさんリハビリや運動を必要とする人も出てくるわ。全員入院して安全に運動処方を受けましょうって世の中になるかもしれないけど、現状ではそうではないのよね。
きっと美奈さんは私たちのずっと先を考えているんだなぁ。と上代は思う。目の前の患者さまはもちろんの事、それからずっと先の先、私たちではまだ暗くてとっても見えない場所の事だと上代は思う。
そして目の前の人に合った、適切な運動処方を行う。こんなに簡単な言葉で難しい事もないわね。お薬の処方もまた全てが最初から完璧だって誰が言えるのかしら?
そやなぁ。お薬の処方も入院中に検査を何度もして決められる事も多いしな。かといって例えば何度も通ってきてくれてその都度運動を処方して反応を見て量を適切に・・・って方法もあるとは思うねんけど・・・
その間にそれがもし原理や原則的には間違ってなくても、その人の目には見えない疾患にとっては間違っていたとしたら・・・って事だよね。
ふむ。確かに難しい事っすけど・・・でもリスクは予測が出来るっすよね?病院でも常に検査結果が出ているわけではなくて、生じた症状に対して検査がされる事も多いっすから!『要は見た目!』って先輩や進藤さん、沢尻さんにも教わった気がするっす・・・
・・・うん。随分と懐かしい言葉ね。最初にお話はしたけど私はどの当たり前の技術をどれだけ疾患に照らし合わせて高水準で行えるか。それが答えの一つだと思うのね。そのお話をする前にちょっと休憩しましょうか!
そうやって高橋は大きく伸びをする。その白波の話したその言葉も元を辿れば美奈さんたちの過ごした救急科、そしてそれはずっと前に美奈さんたちが学んだ事だ。途方もないなー!と思いつつ上代はどこか楽しくなって両手を伸ばした。
白波百合のノート 125
・運動は三つの原理と6つの原則に法って指導を行う。そしてそこに疾病の改善や健康増進という目的が加わると運動処方という言葉にもなる。
・適切な運動処方。とっても難しく、そしてこれからの社会で必要になる言葉の一つらしい。
・いろんな感情を交えつつ、言葉はずっと繋がっていくっす!
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【総集編!!】
【これまでの話 その①】
【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】
【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】
【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】
コメント